体験してみた!

体験してみた!キャンパスは革!ドキドキの姫路の「姫革」色付け体験

播磨

兵庫県伝統的工芸品指定「姫革細工」の製作体験プログラム

取材日|2023年5月18日

 「革の産地」と聞かれて、思い浮かぶ地名はどれくらいあるでしょう。実は、兵庫県姫路市などを含む播磨は、古くから皮革の一大産地。そして、数ある革製品のなかでも、真っ白でふんわりした革に多彩な柄が目をひく「姫革細工」があります。この姫革細工を作る「キャッスルレザー」の工房を訪れると、辺りにはもち麦畑が広がるなんとものどかな場所です。ここで、白い革に自分の好きなように色を付ける体験とヌメ革に焼き色をつける体験をしてきました。

「皮革産業が盛ん」・・・って、一体?

 「兵庫県は、牛革生産量全国一」と聞いても、なかなかピンとこない。玉ねぎでいう「畑」や酒造でいう「酒蔵」といった目に見える産地があるものでもないですし、そもそも革の製造自体、イメージしやすいものでもなかったのかもしれません。ですが、姫路市を含む播磨は古くから皮革産業が盛んで、なかでも牛革生産量は国内シェア約66%(日本タンナーズ協会発行「令和4(2022)年度製革業実態調査報告書」)の全国一。現在、県内では姫路市の高木・御着・網干、たつの市の松原・播州・沢田と北摂地域で皮革産業が行われています。一口に「皮革産業」といっても、動物の「皮」を腐食しない「革」へと加工(=なめし)するタンナー業や革製品の製造、毛皮製品製作など多様な業態があるそうです。

 「皮革の産地って、一体どういうこと…?!」という思いで、今回、姫路市花田町高木を訪れると、その疑念はすぐに打ち砕かれました。道路を進むほど、「ここも」「あそこも」と、いくつもの皮革関連会社の看板を目にし、さらに、何の工場か分からない建物でも、近づいてのぞいて見ると「あ、革製品の工場だ」と判明した場面も。

看板こそ出していないものの、皮革関連会社がここそこにある、ここはまさにレザーの街なのだと実感しました。

ほぼ牛革本来の白さだった

 姫路の革製品の中でも、白い革を使い型押しや着色が施されたものを「姫革細工」と呼びます。白革を使う製品は他にもありますが、「姫革細工」を作る工房として唯一県に認定されているのが、こちらの(有)キャッスルレザーです。

 姫路城から車で約30分。工房の隣にはもち麦が実り、鳥のさえずりや風の音が途切れることがなく、のどか。

 早速、(有)キャッスルレザー代表の水田久司さんに、商品になる前の革を見せていただくと、真っ白!!!

聞けば、「若干の漂白はあっても、着色はせず素材本来の白さがこれ」とのこと。この牛が黒毛だったのか黒ブチだったかは分かりませんが、意外なことに牛は色白さんなのです。(黒毛の牛が毛を剃られて白い肌だったらと想像してみる)。

姫路の革づくりを支えた市川

 現在、なめし作業には主にタンニン(渋)やクロム化合物といったなめし剤が使用されるそうですが、伝統的な白なめしに使われていたのは「なたね油」と「塩」のみ。えっ!?それだけで皮の毛が落ちて「皮」が、腐らない「革」へと変わるのか・・・。どうやら、性質の変化を助けているのが「バクテリアと日光ではないか」という説があるようです。

 かつて姫路では、なめしの行程で、毛皮を市川という川の水流に一定期間さらしていたそうなのですが、その際、苔の付着によってバクテリアが脱毛を促し、その後の日干しによる日光の作用で皮の性質がさらに変化し、腐らない「革」へと変わっていったのではないかという考えがあるそうです(協伸(株) 姫路靼再現プロジェクトより)。つまり、苔が付着しないほど川の流れが速くてもだめで、そういう意味で市川はなめすのに適した川だったということなのでしょう。

かつての市川の風景(提供 兵庫県皮革産業協同組合連合会)。

皮が日干しされている。そして、現在の市川。

まずは焼き付け体験を。「これが端材?」

 キャッスルレザーで体験できるメニューが「彩色体験 小銭入れ3,000円/ガマ財布4,000円」「キーホルダー焼き付け 500円」。
 焼き付け体験は、端材からできた革のキーホルダーの表面を電熱ペンで焦がし、模様をつけていきます。端材と言われなければ分からない上品なヌメ革のキーホルダーです。

 ペンをあてる時間が長ければ濃い色がつき、短ければ薄い色が付きます。ペンを当ててみると、焦げた匂いもなく、するすると線が引けるので、「グラデーションを表現してみよう」と初心者のくせに挑戦した矢先…。ガーン。薄い線がうまく引けず、ところどころ濃くなる・・・。最終的に、半円に中途半端なグラデーションを描いて終了。

「革の凹凸にひっかかるのかな」と水田さん。素材がいいキーホルダーだっただけに、リベンジしたい気分・・・。

こんなに思った通りに着色できるんだ

 もうひとつの製作体験が「彩色体験」。最終的に小銭入れに縫製するか、がま口に縫製するかを決め、柄はこちらの2種類から選びます。

左「チョウ」 右「ルミエ」と名付けられた幾何学模様

 私は、オリエンタルな模様がかわいいルミエ柄に色付けすることに。革にはすでに型押しがされているので、うっすら凹凸がついています。ルミエ柄が印刷された下紙に色鉛筆でだいたいの下塗りをして色のイメージを決め、絵の具でいざ本塗りへ。

 革に着色するのが初めてだったので、「どれだけ色がにじむか」が心配だったのですが、水分を多めに入れた絵の具でもほぼにじまない!これはすごい!

 「本来、製品に使う顔料は乾くのに時間がかかる反面、色を乗せてからぼかしやすい。でも絵の具はすぐ乾くから思ったとおりの色付けができるでしょ」と水田さん。鳥のさえずりを聞きながら黙々と塗り絵をする・・・優雅な時間が流れます。色付け後、この日の作業は終了。革に表面加工が施され縫製された後、製品が届きます。

 体験メニューで選べる柄は2種類のみですが、姫革細工には緻密で多様な柄がさまざまあり、柄付けのために使われる型のなかには江戸時代から継がれて使われてきたものもあるそうです。

 

 そして、数日後、製品が届きました。

適度に色が落ち着いたとはいえ、やっぱり発色がいい。そして、ふっくら柔らかな革なので握り心地がいい。

 「革の産地=姫路」を肌で感じながら、姫革の真っ白なキャンバスに色を付ける。こんな体験、ここにしかないかも。

 

 ▼このプログラムの詳細情報はこちらから ▼ 

兵庫県伝統的工芸品指定「姫革細工」の製作体験プログラム 

 ▼ 体験した内容は動画でも ▼ 

工房の作業音や雰囲気がエモい…

清水奈緒美(兵庫県広報専門員)

好きな旅のスタイルは「自転車旅」。気になる路地、気になる店でいつでも立ち止まれ、道に迷えば地元の人に聞ける、そんな自転車旅が好きです。兵庫県香美町出身。その街の時間の流れが伝わるような記事を書いていきたいです。

取材者:清水奈緒美(兵庫県広報専門員)