体験してみた!人はなぜ真珠を求める?真珠のまち=「神戸」で真珠に金箔を貼ってみる
兵庫・神戸の真珠産業・文化の魅力体験
兵庫・神戸の真珠産業・文化の魅力体験
『竹取物語』に「蓬莱の玉の枝(根は白銀、幹は黄金、実は真珠)」として登場し、古来より珍重されてきた真珠。世界中の海水真珠の約7割が一度神戸に集まり加工され、再び世界へ流通していく、神戸は世界に誇る「真珠のまち」です。それにも関わらず、神戸市民であっても、これを知る人は決して多いとはいえません。
今回は、「神戸の地場産業として真珠を知ってもらうきっかけに」と常設の体験プログラムを立ち上げたパールコネクションを訪問。本物の真珠に金箔を貼ってアクセサリーを作るという、それこそ「蓬莱の玉の枝」を思い起こさせるちょっと高貴な体験をしてきました。
ネイルアートならサンプルは世の中にあふれているのですが、「『真珠への金箔貼り』はあまりパターンが思い浮かばないな」と思っていたところ、やってみると「金箔ってけっこう自在に形を変えられる!」。ふふふ。最終的に、思いのほかお気に入りの作品ができあがりました。
体験の前にまずは真珠について教わります。パールコネクションのオフィス(神戸市中央区)を訪ねると、宝飾品のほかにも真珠を散りばめたミニチュアの風見鶏の館なども。
作品の材料には「アコヤ」「白蝶貝」など複数の貝の種類が書いてあるので、真珠を作り出す貝にもいろいろあるらしい。
そういった真珠の基礎知識や地場産業としての歴史を教えてくれたのは、パールコネクションの小坂裕子さんです。
真珠は貝のなかから取り出された後、すぐにイヤリングやネックレスなどになるのではなく、漂白や調色といった加工と選別が繰り返され、ようやく材料としての真珠になるそうです。そして、この加工・選別などの技術を発展・継承してきたまちが神戸であり、真珠関連会社は神戸市内に約200社以上あると言われています。
直近のデータによると、日本の輸出水産物のなかで真珠は3位の出荷額(約237億円)を占める産品(農林水産省輸出品・国際局<2022年>より)。真珠貝を代表するアコヤ貝の養殖地なら、「三重」や「長崎」となんとなく想像のつく方もいるかもしれませんが、神戸が加工地であることは真珠好きの間でもそう知られていません。・・・なぜか。
ひとつに、真珠加工業は原石としての真珠を加工し宝飾企業等へ卸すため、私たち購買者の目に触れにくいという点、ひとつに加工業にとっては小売業ほどその存在をPRする必要がなかったという点があるそうです。
かつての「真珠会館」にあった展示品の一部は「神戸ファッション美術館」内へ移設。
日本の真珠養殖の技術は明治期に三重県で確立。大正に入り、神戸へ移住した高知県の名士・藤堂安家が、放置されたシミ付き真珠に、地元高知の名産「サンゴ」のシミ抜き方法から着想を経て漂白実験を行い、シミ抜きと染色技術を確立。あえて特許は取らなかったため、この技術を求めて神戸に業者が集まり熟練の技が継承されていったそうです。加えて、神戸港は古くから真珠貿易の実績があり、また六甲山に反射して加工室内に入る日の光が、直射光より真珠本来の色や輝きを見るのに適していたことも、真珠加工の発展した理由だといいます。
ミニセミナーを終え、アクセサリー作り体験へ。
ブローチの土台を選んで、真珠に穴をあけ接着する「穴あけ体験」(3,300円)か、真珠に金箔を貼り、ピアス/イヤリングかペンダントを作る「金箔貼り体験」(6,600円)を選びます。悩んだ結果、「普段、つけることの多いピアスを作ろう!」と、白蝶真珠に金箔を貼ってピアスを作る「金箔貼り体験」をさせていただくことに。
まずは、真珠選びです。白だけでなく黒やゴールドっぽいものもあります。黒い真珠は「黒蝶貝」から作られるため「黒蝶真珠」というそうです。独特の輝きがあります。
じっくり真珠を見ると、同じ白系のものでもひとつひとつちがう!聞けば、真珠は、「形」「キズ」「色」「マキ」「テリ(光沢感)」「サイズ」の6つの要素で品質が決まるそうです。例えば、「マキ」は真珠の層の厚さのことですが、厚ければいいというものでもなく、厚くなるにつれ形がいびつになったり「テリ」が悪くなったりすることもあるとのこと。形も、まん丸い真円だけが好まれるわけではなく、しずく型がよいという人もいたりとさまざまなんだとか。真珠の品質たるものを全然知らなかったので、「ちがいの分かる人間」になった気がして嬉しいです。
また、こうしたパールのネックレスは、真ん中が大きく端は小さいものをつなげることで首に沿うネックレスになるそうで(この作業を「連組み」という)、神戸の企業はこの連組みの技術が高いんだとか。ぱっと見る限りでは大きさに差があることが分からない…これが技術ということか!
ピアスにする真珠を選んだら、専用の先着剤で金箔を貼り付けていきます。鼻息で飛んでいきそうになる金箔を私はまず1ミリ幅に圧縮して、地球の赤道にように真珠に張り付けていきます。アルミ箔を丸めたことがある人なら分かると思いますが、金箔もおもしろいくらいにぎゅーっと圧縮できます。
ハンドメイドのアクセサリー作りとはちがい、なんてったってこれは本物の宝石ですから、内心は「真珠に接着剤付けちゃったぁ!」と背徳感さえ感じます。しかし、それだけに楽しい。「絶対に、『それどこで買ったん?』と言われるピアス作るぞー!」と、黙々と作業します。
ちなみに、真珠に金箔を貼るのには、「『神戸』×『金沢』の日本の伝統工芸とのコラボ」という意味もあるそう。「ふたつと同じものがない真珠に金箔を貼り、世界でひとつのMyアクセサリーを作ることができますよ」とのことですが、まさに、ここにしかない体験です。
しかし、真珠というのは見れば見るほどいろいろな色で反射しています。同じ白系の真珠でも、ピンクっぽい色味があったりブルーっぽい色味があったり、また、ひとつの真珠でも光の具合によって色や輝きが変わったりと繊細です。普段はほとんど、「真珠っぽい」コットンパールしか身に着けないので、本物の真珠の輝きがこれほどまで色っぽいとは。そして、私が思う真珠の一番の魅力が、着ける人を限りなく上品に見せてくれるところ。その効果はあらゆる宝飾品のなかでもトップクラスなのではないかと思います。人はなぜ真珠を求めるのか-。なんとなくその理由に近づいた気がしました。
さて、金箔を貼ること約20分。留め具は付けてもらい、完成しました。
金箔の線がゆがんだところもありますが、いい感じです。
ミニセミナーと製作体験の時間、いろいろお話をしたのですが、パールコネクションのメンバーのみなさんは、なんかパワフル~! それもそのはず。同団体の伊勢田さんは全国通訳案内士で、ほかにも講師、MC、真珠加工企業…と異業種のみなさんが「万博をきっかけに真珠で何かやりませんか?」と集まってパールコネクションを設立したそうです。「真珠加工は化学の世界。室内の温度と湿度は一定。いろいろな薬品が置いてある」など、それぞれの専門分野を感じる瞬間もありました。
「真珠はクレオパトラの時代から重宝されている最古の宝石で、天然素材なのでパウダーは食べたりもできる…永久にではないですが手入れすれば長くもつので、使い捨てないという意味ではSDGsの考えにも当てはまるところがあります」と伊勢田さん。
さらに、真珠を育てるために貝に入れる「核」は淡路でも作られていて、真珠はいわば「兵庫の地場産業」でもあるそうです。
アクセサリーの製作体験は、ここのオフィス以外にもこれまでにルミナス神戸2などのクルーズ船内などでも行っていて、同時に真珠の知識と製作体験を提供できる人材も育てているとのこと。「知れば知るほど真珠の良さってあるし、『これも兵庫なんだ』という地場産業もいろいろありますから、体験や講座を通して知ってもらって、ゆくゆくは兵庫を訪れた外国人が、各地の地場産業の体験を通して地域の人と触れられる、そんなツアーも提供したいです。それが旅行者の満足につながるので」と伊勢田さんのワクワクは止まりません。そして、本物の真珠の絹のような輝きを見つめる私のニヤニヤも止まらないのでした。
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取材者:清水奈緒美(兵庫県広報専門員)
好きな旅のスタイルは「自転車旅」。気になる路地、気になる店でいつでも立ち止まれ、道に迷えば地元の人に聞ける、そんな自転車旅が好きです。兵庫県香美町出身。その街の時間の流れが伝わるような記事を書いていきたいです。