体験してみた!コウノトリ育む郷で
野生復帰したコウノトリが教える地域環境づくり
野生復帰したコウノトリが教える地域環境づくり
兵庫県立コウノトリの郷公園に向かう朝、城崎温泉の宿を出たところで電柱に留まる2羽のコウノトリを見つけました。野生のコウノトリとこんな間近で対面するのは初めて。元気にくちばしを鳴らすクラッタリングは、まるで「ようこそコウノトリ育む郷へ」と歓迎してくれているようで、思い出に残る1日になりそうな予感がします。
日本の野生コウノトリが1971年に絶滅してから、もう一度コウノトリが住める環境を地域一丸となって整え、飼育と繁殖の努力の積み重ねによって2005年に野生復帰を実現。その執念とも言える人々の願いの結晶を目の当たりにしたような気がして、早くも「コウノトリ」への想いが募ります。学校に行きたくない子どもが、気持ちを落ち着かせるために朝、コウノトリの郷公園に寄ってから登校していたことがあるというエピソードもなんだか納得。
さて、コウノトリの郷公園は、野生復帰と繁殖のための研究学習施設です。豊岡の地形から紐解き、なぜコウノトリがこの地に棲息するようになったのかに始まり、生態や絶滅に至る経緯、野生復帰までの道のりやコウノトリと共生する農村の環境づくりまで、とても分かりやすく解説してくださいました。
コウノトリについて教えてもらっているはずなのに、その背景にある人々のコウノトリへの愛着と温もり、野生復帰に向けた意志の力、自然や生物と共に育む暮らしの文化に漲る豊かな心持ちについて感じ、考えさせられる奥深い時間でした。
座学の後は実践です。
コウノトリの郷公園では、93羽(2023年12月)のコウノトリが飼育されています。この道30年以上のベテラン飼育員、船越さんに教わりながら、コウノトリの食事を準備。アジとドジョウの量を測ってバケツに取り分けます。飼育ケージに持っていくと、警戒して寄ってこない慎重派から、すぐに飛びつく積極派まで、人間のように性格が違う1羽1羽の愛らしさにすっかり魅了されました。
船越さんとの交流では、2005年初めての野生復帰、放鳥式でのエピソードや、コウノトリ一筋で歩んで来られた思いに触れることができ、忘れられない特別な体験となりました。
「コウノトリを育む」農法であり「コウノトリが育む」農法でもある、というのが長年、コウノトリ「も」住めるまちに取り組んで来られた中貝前市長の言葉です。
コウノトリが食べるカエルやドジョウなどが生きる環境を地域ぐるみで取り戻そうと「コウノトリ育む農法」を実践してこられた結果、今では400ha以上の栽培面積にまで広がり、豊岡市の小・中学校の給食は全てこの農法で実ったお米を使っています。
帰りに迷わず、その恵のお米を買いました。
長年、ぶれないビジョンと信念を貫き、野生復帰まで実現した豊岡の共生の郷づくり。地元に人工飼育場を建設した人々の英断。今では約370羽のコウノトリが、この豊岡を基点に日本の空を舞っています。なにげない田園風景に、足元を掘ることで世界とつながり、世界に誇れるまちづくりのお手本を見つけた充実感とともに帰途につきました。
なぜ豊岡は世界に注目されるのか|集英社 ― SHUEISHA ―
コウノトリと暮らすまち 豊岡・野生復帰奮闘記 佐竹節夫 著 (農山漁村文化協会)
取材者:田林 信哉 (ローカル・コーディネーター/「大阪・関西万博」ひょうご活性化推進協議会企画委員会常任委員)