体験してみた!道中も丸ごとパビリオン!刀鍛冶のいる里を目指し 公共交通機関も楽しむ旅~相生・羅漢の里~
刀鍛冶が教えてくれる「小刀づくり体験」
刀鍛冶が教えてくれる「小刀づくり体験」
大阪・関西万博300日前シンポジウムで各フィールドパビリオンの意見交換会が行われたのですが、その時に登壇された、刀鍛冶の桔梗光史(隼光)さんがとても印象的なお話をされていました。
「ウチは決して公共交通の便が良い場所ではないんですが、沢山の外国の方が電車・バスを乗り継ぐ行程も楽しみながら訪れてくれるんです」…なんと、道中からパビリオン!?それは是非、私も体験して魅力に迫ってみたい!気持ちの良い秋晴れの下、ハンディカメラを片手に意気揚々と相生駅に降り立ちました。
兵庫県庁から電車で1時間程でJR相生駅に到着。そこから「SPring-8」方面行のバスに乗車します。兵庫県立大学の皆さんも利用される路線なので午前と夕方の時刻は比較的本数があり、私もすぐに乗車することができました。
相生駅から11駅ほど乗車し、瓜生東バス停まで約15分のバス旅を楽しみます。相生駅前は想像よりも沢山のお店や建物が並び「町」の印象。乗り進めていくと車窓が田園風景に移り変わり、あぜ道を彩る真っ赤な彼岸花の群生が目に飛び込んできました。
取材で訪れたのは10月半ばだったので、紅葉は時期が早すぎて見られないだろうなと諦めていたんですが、まさかこんなに美しい彼岸花がお出迎えしてくれるなんて!見渡すと美しい景色にカメラを構える方もちらほらといらっしゃり、私もかわいいモデルさんを見つけてパシャリ。(カメラ目線頂きました 笑)
こういう思いがけない出会いって感動が2倍・3倍に感じられますね。
彼岸花で気分もすこぶる上がり、足取りも軽やかに…更に更に歩みを進めると目の前にどーんと飛びこんできたのがこの景色。
まるで、こっちに寄っておいでと誘(いざな)ってくれているように続く勇壮なのぼり旗の列。
そうか、豊年を祝う秋祭りの時期でもあるから、もしかしたら何か出会いが待っているかも!?
寄り道は旅の醍醐味、ちょっと立ち寄ってみたいという直感に従って迷わず旗の続く方へ向かってみます。
のぼり旗の先で待っていたのは雰囲気のある石橋と神社でした。秋祭り目前ということもあって美しい神幕・奉納幕が張られ、境内も清々しく整えられていました。地域の方々が日頃から丁寧にお世話をされているんだろうなぁ…ということが伺えます。
羅漢の里にこれからロケでお邪魔するごあいさつを兼ね、本殿へ上がらせて頂くと……!
石段を上がり正面に人物画が見えてきたので、立ち止まって何気なく振り返ってびっくり!ぐるりと360度絵馬に囲まれていたんです。文字が書かれている作品があったので、達筆の文字を読み解くと、なんと「大石蔵之介」のお名前が!なるほど、びっしり飾られているのは47人の隊士の皆さんだったのか。忠臣蔵で有名な赤穂市がお隣というご縁からなのでしょうか。
今にも動き出しそうなくらい、生き生きと描かれた四十七士をじっくり眺めていると、美術館にお邪魔したかのような満足感がありました。いやはや、寄り道最高です!
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赤穂浪士の絵馬が奉納されている神社
八柱神社
相生市矢野町瓜生571-17
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神社を後にして歩いていても、やはり気になる素敵だった絵馬…いったい誰が書いたんだろう。気になりすぎて近くの商店を訪ねてみると、酒屋のお母さんからは「分からないなぁ…」とのお返事。仕方ないと諦めかけていたら、たまたま通りすがったご近所さんを呼び止めて下さったお母さん。そこから次々に地区の皆さんの数珠つなぎで
『昔、看板屋さんをされていて、村の看板もたくさん手掛けた地元の方』
…と言うことが分かったのです。すごい!
皆さんが自分事のように考えて下さって、あの人知ってるんちゃうんかな?とリレーを繋いで下さり、無事にゴールにたどり着くことができました。本当にあったかい町だなぁと、すでに心はほっかほか。瓜生地区の優しい空気感を身をもって体験したのでした。
瓜生東のバス停から色んなドラマがありましたが、寄り道なく向かうと僅か15分程の距離にあるのが羅漢の里。夏にはキャンプや川遊び・秋には美しい紅葉が楽しめるスポットなのですが、最寄りのバス停からこんなに近いんだなと驚きました。距離感はやはり実際に体験してみないと分からないものですね。
羅漢の里に入ってすぐの所にあるのが、昔話に登場しそうな水車小屋。そこから何やら カーン カーン と打ち付ける音が響いています!覗いてみると桔梗隼光さんがちょうど、火花を散らしながら玉鋼を鍛錬しているところでした。
写真からも伝わる大迫力の鍛錬の様子は工房で年に数回公開されていて、沢山の観光客で賑わうそうなのですが、近年では日本人観光客よりも外国人観光客の数が上回る月が増えてきたのだとか。日本のアニメからの影響も大きいみたいです。
ふと、電車からバスの乗り継ぎは順調に行けそうだけど、バス停から現地までの道のりは外国の方には難易度が高そうだなと思い、
「迷わずに来られるんですか?」 と尋ねると
「迷って村の方が車に乗せてやってくる人も年に何人かいるんです
お礼を言おうと思ったら、もう車で出発しちゃってて…」と桔梗さん。
直前に、私も村の皆さんにお世話になったばかりだったので、その様子が思わず目に浮かんでしまって、大爆笑。桔梗さんがおっしゃるに、皆さん本当にフレンドリーで、寄ってきてくれて気にかけて下さるのでありがたいですとのお話でした。
相生に生まれ育った桔梗さん。羅漢の里は遠足でも訪れたことがある、なじみの場所だったとか。学生時代に故郷を離れ、刀鍛冶を志し、四半世紀前に岡山の師匠に弟子入りした頃には「もう相生には戻らないかもしれないな」と思っていたそうです。ですが、独立後に作刀できる場所を探していた際に、ふと候補に挙がったのが故郷の相生でした。自然豊かで涼しく、作刀するのに適しているうえ、レジャー施設でもあるので、色んな人に鍛刀場を観てもらえる。気軽に日本刀の文化、伝統、美しさに触れられて、良さに気づいてもらえるのではないかと思ったそうです。
実際に相生に戻ってきてからは、恩師や同級生から励ましの言葉をかけてもらったり、沢山の方の応援の気持ちが届いて、帰ってきてよかったなと言う思いとともに「鍛刀場がきっかけで相生の地を訪れる人が増えるようになることが故郷への恩返しですね」と話されていました。
桔梗さんの故郷への想いを沢山伺ったところで、フィールドパビリオンプログラム『刀鍛冶体験で小刀作り』に挑戦です!
まずは「火造り」
選んだ小刀素材を炭火で熱して叩きます。
ただ叩いたら良いというわけでなく、ハンマーの面を素材にしっかり合わせて打っていきます。この「面を合わせて打つ」と言う動作が、単純な作業ですが、とても難しい!喋ることが仕事の私でさえ、集中しすぎて思わず無言になっていました…笑。そのくらい無心になれる行程です。
続いては、やすりをかけて表面を整えていきます。
打つ工程であちこち叩きすぎてしまい、持ち手までボコボコになってしまっていましたが(己の不器用さ全開…)、これも味!ゴリゴリと削って刃物部分になる箇所をしっかりと整えていきます。都度都度、桔梗さんが優しくサポートしてくださるので安心して取り組めましたよ。
続いては焼き入れ。焼き場土を塗った小刀を、800度に熱して水で急冷させる工程です。
最初の火造りの工程で使っていた炭よりも、小さなサイコロ状の炭で熱していきます。小さい炭を使うことでより素早く熱することができるそうです。炭がパチパチとはぜる音、炭の焼けていく香り、熱されて真っ赤に燃える刀身の赤。五感がどんどんと研ぎ澄まされていくような不思議な感覚でした。「この工程で刀に命を吹き込むんですよ」と教えていただいたのですが、神聖という表現がしっくり当てはまります。炎を見つめながらその時を待ちます。
「いいですね、では水の上で待機しましょう」
桔梗さんの声掛けで素早く移動し、水がめの上で待機…
「はい、今です!」
ジューッと言う大きな音をあげて急冷される小刀。命が吹き込まれる瞬間です。
続いての工程がいよいよ最終の仕上げ、切れるようになるように刃を研いでいく作業です。刃を研ぐときは押すときに力を込め、手前から刃先に向けて順に磨いていきます。せっかく仕上がっている小刀を研ぎすぎないように慎重に進めます。最後の最後は桔梗さんが切れ味を確認しながら最終仕上げをしてくださいます(安心!)。
出来上がった小刀に希望者はお名前を入れてもらえます(銘切)。おっちょこちょいな私は、希望の文字を下書きする段階で文字が小さくなってしまったんですが、桔梗さんは難なく掘り進めて下さり、とても綺麗に刻んでくださいました。書いた文字をそのまま掘って頂けるので、一生の記念になるだろうなと思いました。(神業の詳細は 動画 でぜひ)
フィールドパビリオンに参加された方は、素敵に仕上がった小刀と革ケース、桔梗さんが頭に巻いてらっしゃる手ぬぐいをお土産に頂けます。本格的な小刀は一生もの、お手入れの疑問点・方法もしっかりと説明してくださいますよ。一生愛用できる世界に一つだけの小刀を是非、皆さんも手がけにいらしてくださいね。
また、羅漢の里は自然がとても豊か!新緑の季節と紅葉の季節は特にお勧めです。桔梗さんの水車小屋も真新しい3代目の水車が設置されましたので、その辺りも併せて楽しんで頂けたらと思います。
取材者:清水 理恵子(兵庫県広報専門員)
とにかく感動体質で、興味が沸いた物をとことん調べ尽くす癖があります。
感動の鮮度をそのまま記事に詰め込んで、フィールドパビリオンの魅力を発信していきます。