体験してみた!

体験してみた!「うみゃーなー」、但馬牛、化石。“集落の暮らし”感じる上山高原とは?

但馬

上山高原の再生について学ぶSDGsプログラム(滝トレッキング付)

取材日|2023年8月19日

 県内に自然豊かな高原はいくつかあっても、「牛の放牧」「イヌワシ」「滝」「雪中のかんじき」という別々の顔をもつ高原はそうないでしょう。新温泉町の上山高原。私の出身地香美町の隣町です。フィールドパビリオンでは、高原内のスポットを巡ったり、集落の歴史と生活に触れたりするハイキングを企画されているということで、今回「シワガラの滝」を訪れるモニターハイキングに参加してきました。

いつか行ってみたかった上山。まずは「上山高原ふるさと館」に集合

 神戸から特急列車「はまかぜ」に乗ります。
 私は、今日の目的地である新温泉町の隣町の出身なので、この特急には乗り慣れています。進行方向が逆向きに変わる姫路駅で乗客自身が行う座席回転もお手のもの。
 3時間と少しで新温泉町「浜坂駅」に到着!

 今日のハイキングの集合場所まで、これといった公共交通がないので、ありがたいことに駅まで迎えに来てもらいます。車に揺られ約30分で、着きました!
 「上山高原ふるさと館」です。

温泉町立八田中学校の校舎だったこの建物は現在、上山の環境保全活動を長年続けているNPO法人上山高原エコミュージアムの事務局でもあります。扉に気になる張り紙が…。

「但馬だなぁ」。
この張り紙が個人的にグッときました。屋内でも屋外でもツバメは巣を作りますから開放は厳禁です。

 今日モニターハイキングに参加するのは、フィールドパビリオンのプログラムを企画・運営している「Walk-Hatta」の古矢さん、岡田さん、新温泉町職員の高橋さんらです。出発前に注意事項を共有します。この日は、8月に近畿地方を縦断した台風7号の直後だったので、「登山道に倒木があって通れないところがある」などなど。
 

出発前にNPO関係者のみなさんと記念撮影

  上山高原は、甲子園球場100個分ほど(約373ヘクタール)の広さに、ススキ、ブナなどの広葉樹が茂り、春先にはワラビやゼンマイなどの山菜が育ち、冬の雪原にはウサギが駆けます。天然記念物のイヌワシが生息することでも知られています。私は、数年前に「冬に、かんじきを履いてハイキングするユニークな高原がある」と記憶して以来、上山は、いつか行ってみたい場所のひとつでした。 

NPO法人上山高原エコミュージアム提供

NPO法人上山高原エコミュージアムの馬場さんによると、高原の魅力は「ブナ林」。悩みの種は、近年、増えたシカに野草の芽を食べ尽されること。「かつてのように高原に広がるススキ草原やそれ以外の植物も生息する高原になってほしい」とのことでした。

高原の説明をしてくださった馬場正男代表理事

この牛丼が750円!?お母さんが作る美味しいランチ

ハイキングへ出発。まず、腹ごしらえです。車数台で食堂へと移動する最中、「あれは牛のエサか?」という干し草の山が見えたのですが、これは乾燥させたススキなのだそうです。上山のススキは、茅葺き屋根のカヤ材として適しているので、近年材料として販売しているらしく、「こうして収入を得ることも自然再生を担うNPO活動の継続に欠かせない」とのこと。

 道幅の細い坂道をいくつか登り、食堂・地域交流拠点である「うみがみ元気村」へ到着。

十数人が座れる食堂内には、カップ麺やお菓子、ここで作られた佃煮や味噌を売るコンビニ的なスペースもありました。そういえば、私の地元に昔あった駄菓子屋にも、なぜか食パンや調味料が売ってたなぁ。ハイキング参加者のみんなで、地元但馬の牛を使った「牛肉丼」を注文します。

 上山高原にも放牧されていることのある「但馬牛」。
 この黒毛和種の牛こそが、子牛が他地域へ行き「松阪牛」「近江牛」と名を変え、また県内で育てた子牛のうち基準を満たしたものを「神戸ビーフ」と呼ぶ、ダイヤの原石のような牛です。そんな牛をさらっと「750円」で提供しているのは、但馬牛の畜産農家がある地元だからなのでしょうが、それにしても、安すぎます!!!

 そして、実際に食べてみると、リーズナブルな値段から考えられないほど「美味しい~」。さらに副菜のウリ系の野菜は、味わったことのない歯ごたえで、これまた美味しい。みんなで「この野菜、何やろなぁ」と言っていたのですが、厨房におられたお母さんに尋ねると、「大きなったキュウリです。ぼって(※1)、えごま味噌(自社商品)で炒めたんだけど美味しなかった?」と言うご謙遜ぶり。但馬の人間性は「積極的に前に出ない」といわれたりしますが、お母さん、とっても但馬の人です(笑)。
 ※1「ぼる」…果物や野菜をとる、収穫する。

「海上」。かつてここは湖の底だった

 この食堂のある「海上(うみがみ)」という集落は、人口約90人、高齢化率は60%以上という全国各所にあるいわゆる高齢化集落のひとつです。
 どこの田舎もそうなのかもしれませんが、私の実家のある香美町でも、法事などの冠婚葬祭で使う大量の食器や臼と杵、味噌や漬物をしまう蔵がある古き良き世帯と、都会とそう変わらない生活スタイルの世帯が混在しているので、ここもきっとそんな地区なのかな。私が海上を訪れた日、「うみがみ元気村」のベンチにおばあちゃん達が座っておしゃべりしているのを見かけ、春夏秋冬、農業に勤しみ、お寺やこうした寄り合いの場所で井戸端会議する地元の祖父母の姿を重ねました。

 海上の特産品のひとつが、お米「うみゃーなー」(訳すと「おいしいな」でしょうか?!)。そもそもこの辺りのお米は大概美味しいのだそうですが、「うみゃーなー」は、高地の棚田で、畜産農家が育てる但馬牛の牛糞由来の肥料を使い、生活用水が一切入らない清流で作られているので、「Walk-Hatta」の古矢さんいわく「新温泉町の人でも『うみゃーなー』はちがうと口を揃える美味しさ」なのだそうです。そんなお米をぜひ買って帰りたかったのですが、いかんせん登山リュックに今晩の実家宿泊用の荷物を詰め込んで来たので、スペース的に断念。

 ところで、なぜ山間のこの海上に「海」がつくかというと、約300万年前、この辺一帯は湖の底だったから!
 その証拠に、なんとこの海上周辺は「化石の産出スポット」なのだとか。化石のできる過程にはいくつかあるようですが、海上の化石は、水底に沈んだ動植物が、堆積物に守られるようにできたものだそうです。やがて湖の水は流れ出、現在の地表が出現して、海上集落ができたということです。

おもしろ昆虫館(兵庫県新温泉町千谷)

 こういった上山高原にまつわるお話を教えてくださるのが「Walk-Hatta」の古矢さんと岡田さんです。古矢さんは大阪府在住で、新温泉町出身の岡田さんとママ友として出会い、この地域と人に惹かれ、気づけばこうしてモニターツアー等を企画・運営する立場に。ちなみに、「Walk-Hatta」のHattaとは、海上を含む新温泉町の「八田・奥八田」のHattaだそうです。

洞窟に入らないと見られない「シワガラの滝」

 さて、いよいよ今日の目玉、シワガラの滝へ。
 このシワガラの滝は、滝好き、登山好きには結構有名な滝で、先ほどの食堂にも、この滝目当てで町外から来られたハイカーがいらっしゃいました。食堂を後に、細い道路をくねくね登っていきます。この海上は標高350~400メートルに位置するとのことで、路地の奥には「この先、進んだら落っこちそう?!」な谷山があったりと、なんかマチュピチュを彷彿させるような高山の風景です。

さて、シワガラの滝の入り口に到着。みんなで準備運動をして入山します。

滝までは、約1キロですが、平地はすぐに終わり、鎖をつたって岩登りをする場所があったり、がけ道があったりと登山初心者は、なめない方がいいかもしれません。

台風の通過後だったので、倒木があったり、水の流れが変わったりしたところもあるそうです。古矢さんたち運営者は、「ここは、もう電波が届かない」など、ガイドをする上での注意点を入念に確認されています。

 「やっぱりガイドがいてこそだなぁ」と思ったのが、植物の説明があったり、「登山で嗅覚を使うといい」と教わったりしたところ。新温泉町職員で“山の達人”の高橋さんは「山もいろいろなにおいがあるから、それを感じてほしい」と。

確かに土っぽいにおい、青臭いにおい、いろいろある。

 ちなみに高橋さん、竿を垂らしてものの1分ほどで天然のイワナを釣り上げる場面も。源流域に生息するというイワナを観察した後、速やかにリリース。

40分ほど歩くと、ついに滝に到着!!!

…。

到着と言われても、この先のどこに滝があるのかと思ってしまいましたが、岩陰の洞窟空間へ入り、振り返ると…。

洞窟内にいながら、天窓から光と水が降ってくるという不思議な空間です。

洞窟内には水たまりがあり、けっこう広い。そして、なにより涼しい。クーラーの風とはちがう不均一で潤いのある風が流れていて、なんて心地がいいんだ!しばらくここから離れたくないと思うほどです。

 そして、ここでうれしい差し入れが。古矢さんが海上のお水で淹れたコーヒーを配ってくれました。

私も普段山歩きをする時には、コーヒー豆を持参して見晴らしのいいポイントでコーヒーを淹れます。海上のコーヒーは、軟水だからなのかは分かりませんがとてもマイルドで身体に染みます。

今日、神戸から3時間かけて来てよかったぁ。

 この日、目指したのはシワガラの滝でしたが、上山高原には、落差61メートルの霧ヶ滝をはじめ滝だけでも10以上、さらにブナの原生林、日本300名山の扇ノ山、ススキ高原…と自然の名所が多くあります。そして、特筆すべきは上山高原の自然や生物多様性は約20年にわたり、NPOメンバーでもある地元の方々を中心とした人の手で守られてきた点です。そうした保全活動に触れる複数のハイキングコースをフィールドパビリオンの体験プログラムに考えておられるそうです。

 この日の車内で、「Walk-Hatta」の岡田さんが雑談のように、上山高原に生息するイヌワシについてお話をされていました。イヌワシといえば、国の天然記念物に指定されている希少生物で、環境省によると国内生息数は約500~650羽。兵庫県下では2ペアのつがいしか見つかっていない中で、上山ではそのうちの1ペアが生息しているそう。2023年は扇ノ山周辺で23年ぶりにヒナが誕生したらしいのですが、残念ながら巣立ちできずに巣の中で死亡しているのが確認されたそうです。あまり有名にならないのは、特別天然記念物のコウノトリやオオサンショウウオというビッグネームに隠れてしまうからなのでしょうか。

植田さんと化石スポットへ。心の中の但馬がよみがえる

 さて、ハイキングを終えた後は、海上へ戻り、地元の植田光隆さんに化石スポットをご案内いただきます。

 「光隆さん、そっち行って大丈夫~?」と皆が口々に言うような、草木で地面が見えない道なき道を植田さんは進み、かつて地元の高校生が化石を発見してニュースになったという河原周辺へ。

 なんでも、1960年代に地元の女子高校生が、夏休みの宿題の化石採集でこの辺りの小石の中から虫の化石を発見したといいます。このニュースは話題になり、この河原には「我も、我も」と多くの人が押し寄せてしまい、現在は立ち入り禁止になっているそうです。

 さらに、植田さんから、牛丼を食べた「うみがみ元気村」は県の「地域再生大作戦」を活用して始めたことなどをお聞きしました。

 「きゃーとります」=「書いてあります」「やらぁか」=「やろうか」「しゃーねぇ」=「しょうがない」。
 この但馬弁の落ち着くこと。さらに私が一番「但馬だな」と思ったのが、通りがかりの車の運転手が車に乗ったまま植田さんと雑談していた瞬間です。農業のお話をされていたのか、はたまた地元のお祭りについてお話されていたのかは分かりません。軽トラや単車に乗っている人が運転席から、畑や道にいる人と世間話をする。昔は何とも思わなかったですが、こうして今、目にすると、たまらなく「但馬だな」。

 

 一行は上山高原ふるさと館へ戻り、この日のハイキングは終了です。
 シワガラの滝の「自然の美」や、海上から高原までの「マチュピチュ感」はどれも想像を超えていました。とはいえ、滝を訪れるだけならガイドを頼らずひとりで行くこともできます。この日、私が持ち帰った最大のおみやげは、フキの佃煮「うみゃ~煮」と、時に「もはや地元目線じゃないか!?」という角度で見えていた集落の暮らしのリアル感。世の中に「その土地の生活を感じられる」という田舎体験はたくさんありますが、なぜかそれだけにとどまらなかった今日のモニターハイキング。もしかしたら、私が但馬の出身であり、「のどかでいいところ」に終始しない「田舎の越冬の厳しさ」や「過疎への危機感」を思い出していたからだったのかもしれませんし、もしかしたら、町外出身の古矢さん、新温泉町に実家がある岡田さん、上山高原エコミュージアムの馬場さん、海上の植田さん…上山高原との関わり方が異なるいろいろな目線で、上山の“自慢”と、それらは維持できなければなくなるということを見て、感じていたからだったのかもしれません。

 

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上山高原の再生について学ぶSDGsプログラム(滝トレッキング付)

清水奈緒美(兵庫県広報専門員)

好きな旅のスタイルは「自転車旅」。気になる路地、気になる店でいつでも立ち止まれ、道に迷えば地元の人に聞ける、そんな自転車旅が好きです。兵庫県香美町出身。その街の時間の流れが伝わるような記事を書いていきたいです。

取材者:清水奈緒美(兵庫県広報専門員)